ロスカットは、含み損でFX口座の証拠金が減ったとき、業者が自動で保有ポジションを決済する仕組みです。国内のFX業者は、このルールを整えて守ることが法令(内閣府令)で求められています。発動する水準は業者ごとに違い、この記事では具体的な数字は載せません。公式サイトで自分の口座の数字を見てください。
もう1つ大事なことを先に言います。ロスカットは、損失の拡大を止める仕組みですが、損失を確定させる仕組みでもあります。しかも、条件によってはロスカットが働いても預けたお金を超えて損失が出ることがあります。業界団体の細則にも、その説明を事前にするよう書かれています。仕組みと、追加入金をどう考えるかを順に整理します。
ロスカットとは何か
FXは証拠金を預けて、その何倍もの金額を取引します。含み損が大きくなると、預けた証拠金より損失が膨らみかねません。そうならないよう、一定の水準を下回った時点で業者が強制的に決済する。これがロスカット(ロスカット取引)です。
根拠は、金融商品取引業等に関する内閣府令の第123条です。業者が「十分な管理体制を整備していない状況」や、「ロスカット取引を行っていないと認められる状況」が、投資者の保護に支障を生ずるおそれがある状況として挙げられています。つまり、あるかないかは業者の好みではなく、整備と運用が求められています。
ただし、発動の水準や判定の細かい仕組みは、業者が自分で決めて顧客に説明する形です。ここが業者ごとの違いになります。
証拠金維持率の計算式
ロスカットの判断には、多くの場合「証拠金維持率」が使われます。計算式は次のとおりです。
- 証拠金維持率(%)=有効証拠金(実預託額)÷必要証拠金×100
有効証拠金は、預けた証拠金に含み損益を加減した額です。内閣府令の第117条では「実預託額」と呼ばれ、預託した証拠金に、決済した場合に生じる利益を加え、損失を引いた額と定義されています(スワップなどの細かい扱いは業者の仕組みによります)。
必要証拠金は、法令上は取引額の4%が基準です(第117条第7項・第8項。為替相場の変動を適切に反映させた額でもよいとされています)。だからレバレッジは最大25倍になります。必要証拠金の計算そのものは、FXの必要証拠金の計算方法とFXのレバレッジとはで説明しています。
業界団体(金融先物取引業協会)の細則では、ロスカット水準を「ロスカット取引の手続を開始する判断の基準となる実預託額の必要証拠金額に対する割合(%)」と定義しています。要するに、維持率がこの割合を下回ったら手続を始める、という約束です。細則は、営業日中にこの確認(監視)を行うこと、実預託額がある程度まで減ったときの監視間隔は原則1分以内とすることも定めています。
数字で見る:ロスカットまでの距離(架空の例)
以下は仕組みを確かめるための架空の例です。実際の取引や体験ではなく、実在する業者の水準でもありません。
条件は、口座に10万円。ドル円を150.00円で1万通貨買う。取引額は150万円。必要証拠金は取引額の4%で6万円とします(実際は相場の変動に合わせて必要額が変わる業者が多いですが、ここでは固定します)。仮のロスカット水準を100%とします。
- はじめの維持率:10万÷6万×100=約166.7%
- 3円逆行(147.00円)で含み損3万円:有効証拠金7万円。7万÷6万×100=約116.7%
- 4円逆行(146.00円)で含み損4万円:有効証拠金6万円。6万÷6万×100=100%
この条件では、146円を下回った時点でロスカットの手続が始まる計算です。1万通貨で4円、つまり含み損が4万円。口座の4割です。
次に、同じ10万円で数量を3,000通貨にします。必要証拠金は150円×3,000通貨×4%=1万8,000円。有効証拠金が1万8,000円になるのは、含み損が8万2,000円になったとき。1円あたりの損益は3,000円なので、8万2,000÷3,000=約27.3円の逆行です。
同じ資金でも、数量が3分の1以下になるだけで、ロスカットまでの距離は4円から約27円に伸びます。ロスカットは、自分で決めた数量でほぼ決まります。ロットの考え方はFXのロットとはにまとめています。
ロスカットで起きること
- 保有しているポジションが、業者のルールに従って自動で決済される(全部か一部かは業者のルール次第)
- 含み損が確定した損失になる
- 口座の資金が減り、残った分の範囲でしか取引できなくなる
ロスカットのあとに相場が元に戻っても、決済は取り消せません。「もう少し待てば戻ったのに」という後悔は、後知恵バイアスの典型です。
ロスカットでも損失を防ぎきれない場合
細則は、ロスカット水準を決めるときに、ロスカット未収金(後述)が出ないようにすることを原則とし、市場のボラティリティやオープン時のギャップ(窓開け)を考慮するよう求めています。つまり、ギャップで水準を飛び越えることは、制度側も想定している事態です。
細則はさらに、ロスカットが決まっていても預けた証拠金を上回る損失が出る可能性を、会員が事前に顧客へ適切に説明することを求めています。システムの異常でロスカットが正常に実行できなかった場合の対応方針を業者が定めておくことも、同じ細則に書かれています。
先ほどの架空の例で考えます。10万円・1万通貨のまま、週末明けに相場が大きく飛び、139.00円で決済されたとします。損失は(150.00−139.00)×1万=11万円。預けたのは10万円なので、1万円足りません。この不足が「ロスカット未収金」で、細則は「顧客が会員に支払わなければならない金銭のうち、顧客の取引がロスカット取引により決済されたときの損失が、当該顧客が預託する証拠金額を上回ることにより発生するもの」と定義しています。
この未収金を請求されるか、業者が負担するか。細則はその扱いを定めておらず、各社の約款・取引ルールの話です。口座を開く前に、必ず約款で確認してください。ここは「あとで調べる」では遅いところです。
追証と追加入金の考え方
内閣府令の第117条第1項第28号は、営業日ごとの一定の時刻に実預託額が維持必要預託額(取引額の4%が基準)に不足する場合に、速やかにその不足額を預託させず取引を続けさせる行為を禁止行為の1つにしています。この仕組みの運用が、いわゆる追証(追加の証拠金)です。判定の時刻や期限、不足したときの手続は業者ごとに違うので、これも約款の確認事項です。
追証とは別に、自分から任意で追加入金をする場面もあります。含み損が増えたとき、入金して維持率を上げればロスカットを遠ざけられます。ただ、考え方に注意が要ります。
- 入金しても含み損は減らない。ポジションが負けている状態は変わらない
- 「ここで入れれば戻るかも」で入金を重ねると、損失の総額が大きくなる
- 入金後に相場が戻らなければ、同じ状況がまた来る。距離が伸びただけ
すでに使った金額が惜しくて続けてしまうのは、サンクコスト効果そのものです。含み損が出てから「入れるかどうか」を考えると、感情が入ります。入れるなら、含み損が出る前に条件を決めておいてください。たとえば「根拠が今も有効で、その理由を文章で説明できる場合だけ」。決められないなら、「追加入金はしない」と決めておくのも選択肢です。含み損を抱えたまま持ち続けやすい傾向は、処分効果の記事でも触れています。
ロスカットを避けるための考え方
- 数量を資金に対して小さくする。先ほどの例のとおり、手を打てるのはここ
- 入る前に、ロスカットになる値幅を計算しておく。逆算して数量を決める
- 損切りを自分のルールで置く。ロスカットは最後の手段。自分の損切りが先に働くのが本来の形
- 経済指標や週末をまたぐときは、数量を減らすか持たない。急変動とギャップが一番危ない
損切りを置いても、急変動では置いた価格で決済されない場合があります。損切りがあるから安心、と考えないでください。
口座を開く前に確認すること
ロスカットは業者ごとに違う部分が多い制度です。細則が「ロスカット水準等についてあらかじめ顧客に十分な説明を行う」ことを業者に求めているので、事前の説明が求められています。次の点を公式サイトの取引ルールや約款で確認しましょう。
- ロスカットが発動する維持率(水準)
- 判定の間隔と、判定できないことがある場合の説明
- 全ポジションが決済されるのか、一部だけか
- ロスカット未収金が出たときの扱い(請求されるのか)
- 追証が発生する条件と、入金の期限
口座の選び方の全体像は、国内FX口座の選び方で比較ポイントを整理しています。
条件別のまとめ
- 初心者:ロスカットは頼る機能ではなく、避ける状態として扱う。まず数量を小さく
- 数量を決める人:ロスカットまでの値幅を計算してから数量を決める
- 追加入金で迷う人:入金は損失を減らさない。入れる条件は含み損が出る前に決める
- 口座を選ぶ人:ロスカット水準・未収金の扱い・追証の条件を約款で確認する
ロスカットは、最後の歯止めとして用意された仕組みです。けれど、実際には守り切れないこともあります。頼る前に、自分で損失を限定する仕組みを持ってください。
損失リスクについて
FXはレバレッジ取引で、短時間で大きな損失が出ることがあります。損失が預けた証拠金を上回る可能性もあります。この記事は特定の売買の勧誘ではなく、利益を保証するものでもありません。架空の例は仕組みの説明用で、実際の取引・体験ではありません。
出典と確認日
確認日:2026年10月30日。次の一次情報を実際に開いて確認しました。
- 金融先物取引業協会「金融先物取引業務取扱規則第25条の3に関する細則(外国為替証拠金取引に係るロスカット取引関係)」(2020年6月17日一部改正):https://www.ffaj.or.jp/wp-content/uploads/2019/06/ffaj-gyotori25_3-saisoku-20200617.pdf
- 金融商品取引業等に関する内閣府令(e-Gov法令検索、第117条・第123条):https://laws.e-gov.go.jp/law/419M60000002052
各業者のロスカット水準、未収金の扱い、追証の条件は業者ごとの約款に定められており、この記事では確認していないため載せていません。


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