結論、運に左右される場面でも、自分の行動で結果を制御できると感じてしまう傾向がある
本来、結果が運によって決まる場面であっても、そこに「選ぶ」「集中する」「練習する」といった、実力が関わる場面に似た要素が加わるだけで、自分が結果をある程度制御できると感じやすくなる。この傾向を「コントロールの幻想(illusion of control)」と呼ぶ。
この記事では、コントロールの幻想を示した代表的な実験の内容と、なぜ運に左右される状況でも実力が関わっているかのように感じてしまうのかという背景、そしてFXのトレード判断にどう影響するかを整理する。読めば、自分の判断がどこまで根拠に基づいているかを点検できるようになる。
コントロールの幻想を示した代表的な実験
心理学者エレン・ランガー(Ellen Langer)が1975年に学術誌「Journal of Personality and Social Psychology」で発表した論文「The Illusion of Control」が、この分野の代表的な研究として知られている。
この論文で紹介されている実験の一つが、くじ(宝くじ型のチケット)を使ったものだ。参加者の一部には、自分でくじの番号を選ばせた。別の参加者には、ランダムに割り当てられた番号を渡した。その後、別の人からそのくじを買い取りたいと申し出があったとき、いくらなら売るかを尋ねた。
結果、自分で番号を選んだ参加者は、ランダムに番号を割り当てられた参加者よりも、高い金額を要求してチケットを手放すことに抵抗を示した。くじの当選確率は、番号を自分で選んだかどうかにかかわらず全く同じであるにもかかわらず、「自分で選んだ」という行為があっただけで、当選しやすさを高く見積もる傾向が見られた。

番号を自分で選んだ参加者と、ランダムに割り当てられた参加者で、チケットを手放すことへの抵抗の強さがどう違ったかを表にまとめました。
この論文では他にも、見慣れた記号のくじと見慣れない記号のくじを比較する実験や、練習の機会がある条件とない条件を比較する実験など、複数の実験が行われている。いずれの実験でも、結果が運だけで決まる状況に、選択・馴染み・練習といった、実力が関わる場面を思わせる要素が加わると、実際の当選確率は変わらないにもかかわらず、自分が結果をコントロールできるという感覚が強まる傾向が確認されている。
ここで確認しておきたいのは、この実験はくじという完全に運で決まる課題を対象にしたものであり、FXの価格判断そのものを対象にした実験ではないという点だ。FXの値動きは完全にランダムというわけではなく、何らかの分析で予測の精度を上げられる可能性がある場面も存在する。そのため、FXのすべての判断がコントロールの幻想だと言い切ることはできない。ただし、「選択や練習という行為があるだけで、結果を制御できる感覚が実際以上に強まる」という傾向自体は、FXのトレードにも応用して語られることが多い。
なぜ運次元の結果を自分の実力だと感じてしまうのか
ランガーは、この現象の背景に「スキルの状況と運の状況を混同してしまう」傾向があると説明している。競争相手がいる、選択の余地がある、対象に馴染みがある、といった要素は、通常スキルが関わる場面(将棋やスポーツなど)に伴うことが多い。そのため、こうした要素が運だけで決まる場面に加わると、無意識にスキルの場面と同じように感じてしまう。

画像:Pixabay
FXのトレードでは、チャートを分析する、エントリーのタイミングを選ぶ、監視を続けるといった行為そのものが、「自分がこの結果に関わっている」という感覚を強めやすい。しかし、こうした行為を行ったこと自体は、その後の価格変動の精度を必ずしも保証しない。分析や監視という行為の「量」が、結果を制御できている感覚を実際以上に強めてしまう可能性がある。
オーバーコンフィデンスとも関連があるが、焦点が異なる。オーバーコンフィデンスは自分の分析の精度そのものを過大評価する傾向を指すのに対し、コントロールの幻想は「自分の行動(選択・監視・練習)があるだけで、本来は制御できない結果まで制御できていると感じてしまう」という、行動と結果の結びつきについての誤解に焦点を当てている。
FXでの具体例、行動の量が制御感を強めてしまう場面
架空の例で整理する。あるトレーダーが、同じ条件のエントリーを2つの方法で行ったとする。
- 方法A、エントリー後、何度もチャートを確認し、細かく分析を繰り返す
- 方法B、エントリー後、あらかじめ決めた条件(損切り・利確の価格)だけを設定し、チャートの確認は最小限にする
方法Aのように頻繁にチャートを確認し続けると、「自分がこのポジションの結果に関わっている」という感覚が強まりやすい。しかし、エントリー後の値動きそのものは、チャートを確認する頻度によって変わるわけではない。この感覚の強さは、結果の精度とは無関係に、行動の量だけによって生まれている可能性がある。
同様に、ギャンブラーの誤謬とも関連する場面がある。連敗の後に「次は自分の実力で取り返せる」と感じるのも、本来運に左右される要素が大きい短期的な結果に対して、自分の行動で結果を制御できるという感覚が強く働いている例だと考えられる。
よくある失敗・注意点
- チャートを頻繁に確認することが、トレードの結果そのものを改善すると思い込んでしまう
- 自分で選んだエントリーのタイミングだからという理由だけで、そのエントリーの精度を実際より高く評価してしまう
- 練習や検証を重ねた手法について、「ここまで練習したのだから、結果も制御できるはずだ」と、練習量と結果の精度を直結させて考えてしまう
- ランガーの実験結果を「FXのトレードにも同じ構造でそのまま当てはまる」と誤読する。この実験はくじという完全に運で決まる課題を対象にしたものであり、FXの値動きとは前提が異なる
よくある疑問、FXの分析はすべてコントロールの幻想にすぎない?
FXの値動きが完全にランダムであるとは言い切れず、相場分析によって判断の精度を上げられる可能性がある場面も存在する。そのため、分析や検証そのものを「すべて幻想だ」と否定するのは、行き過ぎた結論だ。
重要なのは、「この行動(チャートの確認、分析の回数)が、実際に結果の精度を上げている根拠があるか」を、感覚ではなく検証結果で確認することだ。行動の量そのものが制御感を強めてしまうという傾向を知っておくことで、「やっている感覚」と「実際の精度向上」を区別しやすくなる。

コントロールの幻想の影響を減らすための3つのステップを図にまとめました。
まとめ
コントロールの幻想は、本来運に左右される場面でも、選択や行動の量があるだけで、結果を制御できると感じてしまう傾向だ。FXのトレードでは、チャートの確認や分析の量が、実際の精度向上とは別に、制御感そのものを強めてしまう場面に現れやすい。
結果に強い自信を感じたときは、「この自信は、検証された精度の向上に基づいているか、それとも行動の量そのものから来ているか」を確認する習慣が、コントロールの幻想に引きずられた判断を見つける手がかりになる。
FXは証拠金を上回る損失が生じるリスクがあります。本記事で紹介した研究はくじを使った実験であり、FXでの再現性を保証するものではありません。本記事は心理的な傾向の理解を助ける情報提供であり、特定の売買手法や成果を保証するものではありません。
※本記事で紹介した研究は、以下の情報源を参照しています(2026年10月時点で確認)。
- Langer, E. J.「The Illusion of Control」(Journal of Personality and Social Psychology, 1975)


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